ショートストローク・高速プレス加工におけるズレ

今回はボールガイドのリテーナーのズレ対策をテーマとした記事となります。
電子部品の金型などは6mm~20mm程度のストロークで1000spm~3000spmもの高速プレス加工が今や普通のスピードとして運用されています。高速であるという事はリテーナーのボールの回転が、上死点もしくは下死点で正回転から逆回転にと高速で切り替わっている事を意味します。そういった金型ではリテーナーのズレに悩まされる事があります。電子部品やモーターコア金型で見られた実例を紹介します。多くの電子部品金型は寸法精度が厳しい為、ガイドはメインガイド+サブガイドという組み合わせで金型を製作する事が一般となっています。サブガイドはプレーンガイドというパターンもありますが、下のようなストリッパー固定型ガイドポストによるボールガイドも多くの金型に使われています。下の図をご覧ください。

short_stroke_offset

ダイプレート側のガイドが仕事をするのですが、ストリッパープレート、パンチプレート側は共に上下に動くため、上側のリテーナはほぼストロークしません。ただし完全に静止状態ではなく1mm程度のストロークが発生している事が多いようです。
多くのリテーナーはボールの大きさが1mm~5mm程度のボールが使われていますが、
ボールが1mm径でも3.14mmが外周である事を考えるとまず1mm程度のストロークでは0.5mm程度しか動きません。ということはボールが半周すらしない状態で正回転・逆回転を繰り返している状態になっています。基本予圧さえ掛かっていればちゃんと正回転・逆回転をするのですが、正回転から逆回転に切り替わる瞬間にズレが発生してしまい徐々にボールが落ちる・又は上がってきてプレートに衝突するという事態が発生する事があります。

原因としては1000spm以上の高速プレスになるとスティックスリップだとかクリーピング現象と呼ばれる現象が発生し、上死点及び下死点などの静止している僅かな瞬間に上下方向に慣性が働きズレが発生。また摩耗が進み予圧は掛かってはいるものの上下方向の運動による慣性に負けてズレるパターンが考えられます。

リテーナーのズレ対策

スプリングによるズレ対策

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対策としては固定ストッパーやバネを用いてズレても元の位置に戻すような機構を設けます。上の図ではパンチプレート側のリテーナーは下に落下して、ダイプレート側のリテーナーは上に上がってくる事を想定しています。ダイプレート側のガイドはストロークがある程度大きく抜き差しがあるストロークを想定しています。もしリテーナーがブッシュの中で摺動し抜き差しが無く、リテーナーが下方向に落ちてくるようであればバネをブッシュの下側(バッキングプレート側)に設置します。

またズレが発生する原因として摩耗が原因であることもあります。ボールが回転しないが為に起こるフレッチング摩耗※が原因で摩耗が進み、摩耗が進んだ結果予圧が弱くなりズレが発生するという事例があります。この場合はリテーナーのボールの潤滑にフレッチング摩耗対策の潤滑グリースを用います。潤滑剤についての詳しい情報は別項目で説明します。

サークリップリングによるリテーナーのズレ対策

もう一つの対策法としてサークリップリングを用いた方法を紹介します。ガイドブッシュに溝を加工し、サークリップリングを設置します。サークリップリングには軸用と穴用がありますが穴用を用います。設置は専用工具のサークリップリングプライヤーを用います。リングの内径がガイドポストに当たらないよう選定に注意が必要です。

金型部品メーカーによってはサークリップリング付きのブッシュもあります。サークリップリングによりリテーナーが落下するのを防止出来ますがリテーナーの鋼球の摩耗状態などのチェックを定期的に実施する必要があります。

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今回は高速ショートストローク金型におけるサブガイドのリテーナーのズレの事例を紹介しました。次回はメインガイドでロングストロークの金型で発生するリテーナーのずれの対処法を紹介します。

※フレッチング摩耗・・フレッティング摩耗とも呼ぶ。接触する二物体間に微小な往復滑りが繰り返し作用する事で生じる摩耗。軸受が回転しない状態で振動を受けたりして生じる摩耗現象。解決方法としては予圧(しめしろ)を大きくする。潤滑剤の塗布によって解消する。事が挙げられます。

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