
ミニセンタリングを用いたQDC金型の事例
QDC金型とは「Quick Die Change(クイックダイチェンジ)」を意味する言葉で、少量多品種の生産体制において金型を頻繁に交換する運用を効率化するための金型です。アガトンのミニセンタリングを応用することで、QDC金型の運用が可能になります。作業はプレートをネジを締めるという工程だけで完了し、ハンマーでスペーサーやプレートを叩くノックピンに比べ大幅に作業時間が短縮されます。またノックピンは穴が歪みによる位置決め精度の低下が表面化しにくく、パンチプレートとパンチホルダーの位置ずれがチッピングを招くケースがありました。ミニセンタリングを使うと位置決め穴の寸法精度の安定化につながるためトラブルの防止に繋がります。
作業が速くなるだけでなく位置決め精度が高いために様々な恩恵があります。メリットとしては以下になります。
・金型組付け及び交換作業の時間短縮
・パンチのチッピングなどのトラブルの削減
・カセット化によるプレート及び部品点数削減によるコスト削減
・非熟練作業者も出来る作業となり人的資源の効率化
・ノック穴のような穴の歪みがなくなるため、追加マシニング加工費の削減
以下QDC金型の概要をご案内します。
確実に位置決めされた、コストを削減するQDC金型を作る
ダイセット部だけを交換しやすくするQDC金型は、これまでにも存在していました。オートクランプなどの治具による交換では、通常、交換時間の短縮によってプレス機の稼働率が向上する効果があります。しかし、この方式は金型そのもののコスト削減にはつながりません。
ミニセンタリングを用いたQDC金型では、以下のプレートを共通化します。
・ダイホルダープレート(ベースプレート)
・パンチホルダープレート
・バッキングプレート
・ストロークエンドブロック
・メインガイド
・シャンク
これらのように交換する必要のないプレートは共通化し、都度製作が必要な金型(カセット部)のみを交換できるようにします。この構造により、ダイホルダー、パンチホルダー、ストロークエンドブロックなどの購入数を削減できます。

位置決め精度 ― 繰り返し精度、同軸度
ミニセンタリングの位置決め精度は、リテーナーが穴内面を転がることで得られます。すべり案内のようなバックラッシがなく、金型が閉じるたびに同じ位置へ戻る繰り返し再現性はサブミクロン単位です。
・繰り返し位置決め精度:【±1μm以内】(プリロードによりバックラッシゼロ)
・位置決めの原理:鋼球(材質 SUJ2)がプリロード状態で摺動 → こじれ・食い付きがなく、専用ノウハウなしで着脱可能
・同軸度:ブッシュあり 2.5μm以内(下図左側)、ブッシュ無し1μm以下(下図右側)

「位置決め」と「締結」の役割分担
技術者が最初に確認するのが、ここです。ミニセンタリングが担うのは「位置決め」であり、「締結(保持)」ではありません。
QDCカセット金型では、この2つを明確に分けて設計します。
・位置決め:
ミニセンタリング(カセット↔ベース間、およびカセット内のプレート間)
・締結(保持):
ボルト締結にて行う。

センタリングの数と配置
アガトンの推奨は、1つの金型に最低2個、通常は4個、必要に応じてそれ以上です。基本的には通常使っている金型に使用していたノックピンが何本かに基づき数量を決定します。
・最低2個:回転(振れ)を拘束するために2点が必須
・通常4個:プレート四隅付近に対称配置し位置決めを安定させる
・スパンは大きく:2点間の距離が大きいほど角度精度が有利になるため、可能な範囲で離して配置する
・相互位置精度:複数ユニットを設ける穴どうしの位置公差が最終的な合致精度を決める。各穴はジグボーラー/高精度CNCで、相互位置5μm以内に仕上げる

リテーナーを受けるプレートの穴加工
ミニセンタリングは、鋼球がプレート(または後述のブッシュ)内面を直接摺動します。したがって摺動面=位置基準となる穴を、必ず高精度に設けることが大前提です。プレートの硬度に応じて、ブッシュの要・不要が変わります。判断基準は、リテーナー鋼球(硬さHRC62〜64程度)とプレートとの硬度差です。
プレートが焼入れ鋼(SKD11など)の場合
プレートが焼入れ鋼の場合はブッシュは不要で、鋼球がプレートの穴を直接摺動します。この穴自体が摺動面かつ位置基準になるため、真円度、円筒度、表面粗さを精級で仕上げます。
| ピン径 | 品番 | 穴径 |
|---|---|---|
| φ8 | 7980.008.029 | 11(-0.001/-0.007) |
| φ10 | 7980.010.029 | 14(-0.002/-0.010) |
プレートが焼入れ鋼より軟らかい場合(プリハードン鋼・生材など)
プレートがプリハードン鋼や生材の場合は、ブッシュを介します。リテーナー鋼球(HRC62〜64程度)とプレートとの硬度差が大きいと、プレート側に打痕・傷が生じるためです。ブッシュが硬い摺動面を提供します。
ここで重要なのがブッシュの取り付け方です。
基本は、穴をJS4級で仕上げ、ブッシュ外径に対して軽圧入〜すきまばめとします。これによりブッシュが穴で位置決めされ、M4ネジは抜け止め・補助固定になります。
| ピン径 | ブッシュ穴の仕上げ | 位置基準 |
|---|---|---|
| φ8 | φ15 JS4(±0.0025) | 穴(圧入~微すきま) |
| φ10 | φ20 JS4(±0.003) | 穴(圧入~微すきま) |

ミニセンタリングのサイズの使い分け
ミニセンタリングのサイズ展開はφ8とφ10があります。
どちらを選ぶかは、荷重・剛性・スペースのバランスで決めます。
| 判断軸 | φ8 が向くケース | φ10 が向くケース |
|---|---|---|
| プレート/インサートのサイズ | 小〜中型、キャビティ密度を上げたい | 中〜大型 |
| 荷重・横荷重(サイドスラスト) | 比較的小さい | 大きい |
| 必要剛性 | 標準 | より高い剛性が必要 |
| 設置スペース | 省スペースを最優先 | スペースに余裕がある |
| 許容荷重(1ユニット) | 【194N/個】(静的許容荷重) | 【345N/個】(静的許容荷重) |
基本方針は、必要な許容荷重・剛性を満たす最小径を選ぶことです。省スペース・高キャビティ密度を狙うならφ8、荷重や剛性の要求が高い大型・高負荷の型ならφ10を基準にします。更に大きなプレートになる場合は、ピン径がφ15~φ50でローラーベアリングタイプのRFCSが適します。許容荷重が4700N/個~28200N/個と大幅に高剛性化になります。
QDC化でどれぐらいコストを削減できるのか?
カセット化によるコスト削減
QDC化により、パンチホルダープレート、ダイホルダープレート、ストロークエンドブロックの購入数を減らせます。金型のサイズは企業ごとに異なるため、ここでは仮定のサイズで試算します。
<仮設定 QDC金型サイズ>
・SKD11 400×600×25mm ×2枚(約94kg)
・ストロークエンドブロック φ25×L40 ×6本(0.9kg)/φ25×L110 ×6本(2.5kg) (0.9Kg+2.5kg=3.4kg)
上記の想定で、1台あたり 17万〜19万円弱、重量は 97~100kg/台 となります(価格は国内製造業ECサイトの実勢価格を基に試算)。
カセット化した台数ごとにこのコスト分が削減できるため、たとえば 5型をQDCカセット化できれば約85~95万円のコスト削減 が実現します。あわせて5型分のパンチホルダープレート/ダイホルダープレートが不要になることで、金型保管庫の保管重量を 約475kg 軽くできる計算です。
金型の製造・生産を外注する場合、長期的には金型の保管費用が課題になり得ます。QDC化によって金型が軽量化されれば、こうした保管費用の抑制にもつながります。
位置決めの高精度化に伴うコスト削減
ミニセンタリングを使うことで、下型(ダイホルダープレート・ダイバッキング・ダイプレート)と上型(パンチホルダー・パンチバッキング・パンチプレート)の位置決めが、高い繰り返し精度で実現されます。ただし、パンチプレートとダイプレートを正しく位置決めするには、以下がすべて担保されている必要があります。
・上型内:パンチホルダー/パンチバッキング/パンチプレート間の位置決め
・下型内:ダイホルダー/ダイバッキング/ダイプレート間の位置決め
・上下型間:パンチホルダー側とダイホルダー側の、ミニセンタリング設置位置の位置精度
・カセット内:サブガイドはストリッパーガイドピンではなくボールガイドとし、パンチプレート・ストリッパープレート・ダイプレートを位置決め
この構造が徹底されていれば、パンチのチッピングを防ぎ、再研磨の回数が削減され、超硬部品の調達コスト低減につながります。
また高精度化によるクイックチェンジ化は金型の交換作業などの簡略化につながります。作業時間の短縮は見えないコスト削減にもつながります。

ミニセンタリングのメンテナンスと寿命
ミニセンタリングはベアリング部品の一つでありベアリングのメンテナンスは通常はグリスなどの潤滑剤で鋼球の摩耗対策をします。鋼球の摩耗はグリスの有無により変わりますが、グリスが無い場合1万ストローク程度で摩耗し、グリスがある場合100万~1000万ストローク以上となります。今回のQDC金型用途ではミニセンタリングは位置決めにおける動的用途ではなく治具としての静的用途となります。基本的にはメンテナンスは不要です。
ベアリングの寿命とメンテナンスで金型バラシをする回数を考えますと基本的には交換することなく使えると想定できます。仮にベアリングに寿命が来た場合の状況ですが、球の摩耗が生じるとリテーナーの鋼球にプリロードが掛からなくなりガタが出ます。ベアリングの機能の有無はガタの有無で判断します。









